2004年。 ほんの十分程度の無駄な会話がとても楽しくて,そんな時間がずっと続けばいいと思った。
答えなんかない,といわれるとますます答えを探したくなるものです。「そのうち」という言葉が社交辞令として発せられたものかどうかはそのうちわかるものです。──こんな出だしで原稿用紙の二行目以降が埋められていた。一行目は空行だった。鉛筆で書かれて…
「S君がピアノじゃなくてギターを弾いてくれたらいいのに,と思うの。その指が動くのを見ていたい」とNは言った。 「はは。無理だろうね。ギターなんて弾けそうにない」と僕は返答した。 「先に帰るね」と席を立った僕にNは「土曜日は何か持っていく?」と聞…
照明を落とした部屋の暗がりにようやく目が慣れてきた頃。 僕はずっと黙っていたNの左腕をつかんで引き寄せた。指先はゆっくり背中をはうように動く。Nは僕の体に両腕を回し,締め付けた。「誰の代わりなのか知らないけれど」 Nは言った。「私,脱がないよ」…
「Sさん! どーせあと20年もすれば,肝臓だの血圧だのとなんだかんだで薬を飲むような生活になるんですよ? 何もいまから好きこのんで,薬を飲むような生活なんてしなくていいじゃないですかー」あー。 そのとーりだなー。 Yはすごいなー。 元気だなー。
最近涙もろい……。 いぁ,涙が流れるほど,泣きはしないのだが。なにかにつけて,イライラしながら,ふと気付くと途方もない虚無感がおそってきてこみ上げそうになったり。一方で映画なんかを見てるとそれもやばいわけですよ。 さっきも「クレイマー,クレイ…
「だって30歳過ぎてるんでしょ?」 ──ん。 「余裕なの?」 ──んー? 「私にはそんな余裕はないんだ」 ──で。どうしろと? 僕にはどうしようもないんだけどな。
いっそのことエラーメールでも帰ってくれば良かったのに。 返信のないことに妙に苛立つ自分に余計に苛立つ。 「届かないメール」とか「メールの返信を待つ私」とかそんなチープでありきたりなフレーズが,やすっぽい歌謡曲のような表現にしか見えない。当た…
なんだか些細なことに泣けてくる。 2ch系ブログで母の日記念かなんだか知らんが関係のスレッドが照会されているのをみては切なくなり(ネタとわかっていてもダメ),村山由佳のBAD KIDSを読んで切なくなり(恋って切ねぇとか,友人(ゲイ)は自分とはまた違…
替わりはいくらでもある。替わりはいくらでもいる。別にそれじゃなくてもいい。別に僕じゃなくてもいい。別にあなたじゃなくてもいい。きっと探せば替わりはそのうち見つかる。人の記憶は薄れいくものなんですって。僕はそう信じたい。だって,だから生きて…
僕はビー玉を初めて手にしたとき,ビー玉の中を見たくて仕方なくて,よく見えるように目に近づけた。ビー玉の中には何もなくて,向こう側が歪んで見える事に気付いた。僕はその歪みを矯正したくて,焦点を向こう側の世界にあわせた。 ビー玉を通して覗く世界…
雨と,雪の,境目を,見た。
灰谷健次郎『海になみだはいらない』を本屋で手にして,後ろの紹介文を読んで,あまり触れたくないのだけれど,でもたまには思い返すのも悪くないかと思えるような時期のことを思った。レジに持っていき,いつものように行き帰りの電車の中で少しずつ読んだ…
この雨が止んだら秋が終わるはず。
僕と彼女の間のコトバは音と表記を持っている。そして今,彼女はいない。僕はコトバの表記を黙読する以外の方法がない。 例えばそれは買い物メモ。メニューと日記。テクストは否応なしに展開していく。残るのは何? 無くなったものは? 無くなるべきものは何…
ねぇ。 ここは真っ暗なんだよ。 こっちへおいでよ。 そこに寝ころんで。 そのうち目が慣れるなんて思わないで。 真っ暗ってどう?ねぇ。 月をつくったんだよ。 見たい? 目を閉じて。 スイッチを入れるから。ねぇ。 目を開けて。 ライトってまるいんだよ。 安…
──自分に降りかかる雨は払えるのに,相手に降りかかる雨は払えない。 そんな風にYは言った。僕はそんなの欺瞞だと思っていたし今も思っている。
「リアルなのにリアルじゃない,フェイクなのにフェイクじゃない,そういう,ふわふわした,浮遊感のある文章が好き」と僕の文章を好きだと言ってくれた人がいた。
「言葉にすると浅くなるなあ,でも僕らには言葉しかないんだよね☆」とか「経験がすべてとはいわないけどさあ,経験したから判るって事もあるよね♪」とか,「そんな経験優越主義なんてまっぴらだ。僕らの想像力を馬鹿にするなヨ!」とか。そんな酔っぱらいみ…
耳をすませば──なにか聞こえてくる。 FMラジオを切って,パソコンの電源を落として,耳鳴りがした。キーンという高音が離れない。耳を塞いだ。塞げば塞ぐほどその音は鋭さを増していく。 布団に入り目を閉じた。眼前は真っ暗になるどころか,モーションエフ…
僕はきっと駄目になりたいだけなのだ。
「相変わらずなの?」 「え?」 「食事するの,今も面倒?」 「うん。基本的には面倒だな,と思う」 「そっか」 「気になる?」 「いや,別にそんな,ねぇ。他人がどうしようとわたしにはあまり関係ないというか」 「そうね。それがいいよ。他人のことを気に…
「ススキってどこに生えてるの?」 「ん? その辺にあるでしょうに……」 「ないよ」 「見えてないだけですがな。帰り道にいくらでもあると思うが……」 「ふーん」 「うん」 「お月見した?」 「あのさぁ……大雨だったでしょ?」 「あ,そうか」 「忘れたの?」 …
君が忘れても私は忘れないものがあると信じていると言った君がいなくなった。
語る場と語りを共有できる相手を失った記憶はどうなるか知っていますか? 日常の生活に埋もれてしまうんです。ちょっとやそっとじゃ呼び起こせない程度に埋もれてしまうんです。
「夏が終わった」 「何もないね」 実際のところ,7月や 8月に何もしていないわけはないのであって。 「何もない」と言えば楽になれる。対話の拒否。 「あったこと」を「なかったこと」にするとか,失敗したことの責任を取らずにしてしまうとか,そうやって,…
理解して欲しいなあと欲するのは悪いことじゃないと思うのだけれども,結局の所自分が理解して欲しいのは何か,という所から考えなくてはならないのだと思うと億劫で。伝えたいことが明確にあるわけじゃなくて,なんとなく伝えなきゃならないという状況がも…
君は幸せだろう。馬鹿だから。 馬鹿ってさ,過剰な余剰な一切を持たないんだよ。恐ろしく中味がない。その中味の無さが恐ろしくて,僕は馬鹿にはなれない。
誰かの重荷にならないように,その人を想うには,その想いを口にしてはならない。もう少し厳密にいうならば言語化できる可能性を潰すことだ。だから,沈黙は意味をなさない。
テクストは読まれ得る。テクストは読まれ得ない。 僕の作ったテクストは読まれ得る。僕の作ったテクストは読まれ得ない。 僕の作ったテクストの行間が読まれ得る。僕の作ったテクストの行間が読まれ得ない。 僕の作ったテクストのコンテクストが読まれ得る。…