正立する世界を僕はどうやって覗いているのか

僕はビー玉を初めて手にしたとき,ビー玉の中を見たくて仕方なくて,よく見えるように目に近づけた。ビー玉の中には何もなくて,向こう側が歪んで見える事に気付いた。僕はその歪みを矯正したくて,焦点を向こう側の世界にあわせた。
ビー玉を通して覗く世界はひっくり返っていた。何度やっても覗き込んだ先の世界は決して正立ではなかった。
光の進み方があってね──と父は言った。ふーん,と僕は答えた。
今の僕は,ビー玉を手にしたらもう一回くらい,ひっくり返った世界を見てもいいかな,と余裕なフリをするだろう。